相続の知識と遺言の書き方
1 相続対策
① 財産の整理をしておく
自分の財産を整理しておく。自分の財産をどうしたいのかを考えてみる。
② 財産の分け方を決めておく
次の世代に承継してもらうための財産の分け方を決める。財産を分けやすい状態にしてお く。
③ 分け方に関して意思表示をしておく(遺言書を書く)
財産の分け方について遺言書を残しておく。自分の意思を伝えておかなければ、残された人に迷いや欲を持たせてしまう。
④ 次に託す代表者を決めて伝えておく
相続の手続きは相続人全員で進めるが、窓口となる代表者は1人のほうがスムーズ。代表者を選任して遺言書に明記する。
⑤ 円満な家庭を作っておく
2 法定相続の割合
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配偶者がいる |
配偶者がいない |
第1順位 (子、孫) |
配偶者:2分の1 子:2分の1 (3人⇒各6分の1) |
子が全部相続 (3人⇒各3分の1) |
第2順位 (父母) |
配偶者:3分の2 父母:3分の1 (父母⇒各6分の1) |
父母が全部相続 (父母⇒各2分の1) |
第3順位 (兄弟姉妹) |
配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1(3人⇒各12分の1) |
兄弟姉妹が全部相続 (3人⇒各3分の1) |
上記血族が いない場合 |
配偶者が全部相続 |
相続人なし |
3 相続財産の評価方法(時価評価)
① 土地の評価方法
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路線価方式 |
倍率方式 |
対象土地 |
市街地にある宅地 |
左記以外の土地 |
評価方法 |
道路ごとに定められた1㎡当たりの路線価をもとに宅地の評価額を出す評価方法 |
宅地の固定資産評価額に、国税局長が一定の地域ごとに定める倍率を乗じた額によって評価される評価方法 |
評価方式 |
路線価(1000円単位、税務署の路線価図で確認)×㎡(×調整率) |
固定資産税評価額(市区町村発行の固定資産税評価証明書)×倍率(税務署の倍率表で確認) |
② 建物の評価方法
固定資産税の評価額がそのまま相続税評価額
4 相続税の計算の仕組み
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計 算 方 法 |
計 算 例 課税価額の合計額1億円 相続人3名(配偶者、子2名) 実際の分割(配偶者8000万円、子各1000万円) |
課税価額の計算 |
・課税価額=課税価額の合計額-基礎控除額 ・課税価額を法定相続人(法定相続割合)で分け、各人の課税価額を算出 |
・基礎控除額:3000万円+600万円×3人=4800万円 ・課税価額:1億円-4800万円=5200万円 ・各人の課税価額(配偶者2600万円、子各1300万円) |
相続税総額の計算 |
・相続税の総額=(各人の課税価額×税率)の合計 |
・配偶者の相続税:2600万円×0.15-50万円=340万円 ・子の相続税:(1300万円×0.15-50万円)×2人=290万円 |
各人の税額の計算 |
・各人の税額=相続税の総額÷各人の実際の分割割合 |
・配偶者の実際の税額:630万円×0.8=504万円 ・子の実際の税額:630万円×0.1×2人=126万円 |
納付税額 |
・税額控除(配偶者が相続財産の半分まで、あるいは取得財産が1億6千万円までは無税等) |
・配偶者の納付税額:0円 ・子の納付税額:各63万円 |
課税価額の合計額=相続(遺贈)財産+みなし相続財産-非課税財産-債務及び葬式費用+
相続開始前3年以内の贈与財産
相続税の税率⇒1000万円以下10%、1000万円超~3000万円以下15%控除50万円、3000万円超~5000万円以下20%控除200万円、5000万円超~1億円以下30%控除700万円、1億円超~3億円以下40%控除1700万円、~
*基礎控除額:3000万円+600万円×法定相続人数
5 遺言書の目的と内容
① 遺言書は、死後の争いを避けるため生前から相続の方法を具体的に決め、書面の形に残したもの
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相続人について |
遺産分割などについて |
遺言を残した方が良いケース |
・独身で子供がなく、親か兄弟姉妹が相続人になる場合 ・結婚しているが子供がなく、配偶者と親か兄弟姉妹が相続人になる場合 ・独身で子供がなく、親も兄弟姉妹もいない場合 ・先妻、先夫の子供と後妻,後夫の子供、認知した子供等がある場合 ・子供や兄弟姉妹が先に亡くなり、代襲相続人がいる場合 ・家族間ですでに争いを抱えていたり、対立している場合 ・財産を与えたくない相続人がいる場合
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・すでに贈与した財産を明確にしておきたい場合 ・介護や事業に従事してくれた相続人がある場合 ・相続人が同居したり、使用貸借している不動産がある場合 ・相続人に特定の財産を与えたい場合や与えたくない場合 ・援助が必要な相続人に財産を多く与えたい場合 ・同族会社や個人事業者で、後継者に財産を与えたい場合 ・相続権のない孫や嫁、兄弟姉妹、第三者に遺産を与えたい場合 ・寺、協会、公共団体等に寄付する場合 |
② 遺言できる内容とできない内容がある
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相続に関すること |
身分に関すること |
財産処分に関すること |
遺言すると効力を発揮する内容 |
・推定相続人の廃除 ・特別受益者の持戻しの免除 ・相続分の指定 ・遺産分割方法の指定 等 |
・未成年後見人の指定 ・遺言執行者の指定 ・祭祀承継者の指定 ・遺言による認知 |
・遺贈 ・寄付行為 ・生命保険受取人の指定
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6 遺言書の種類
普通方式の遺言 |
自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
秘密証書遺言 |
遺言の特徴 |
遺言者がすべて自筆(遺言の全文、日付と名前、押印)で作る遺言書。証人なしで簡単に作れるので便利。秘密は守られるが、書き換えられる危険性あり、保管に難点。要件不備の可能性、死後不明の恐れあり |
2人の証人の立会いの下に遺言者が口頭で述べた内容を公証人が記録。検認不要で保管は確実だが、秘密が漏れるおそれあり |
遺言者自身が作成して封印した遺言書を公証してもらう方式。秘密は守られるが、公証人のところまで行かなければならず、2人の証人も必要。要件の不備、保管に難点あり |
作成者、作成場所、ワープロ |
本人作成、場所問わず ワープロ不可 |
公証人作成、公証役場で作成 ワープロ可 |
本人(代筆可)作成、場所問わず ワープロ可 |
証人・立会人 |
不要 |
2人以上 |
公証人1人、証人2人以上 |
署名・捺印、印鑑 |
本人のみ |
本人、証人、公証人 |
本人、封書は本人、証人、公証人 |
封入、保管 |
封入不要(封入していたほうが良い)、本人保管 |
封入不要、原本は公証役場保管、正本は本人保管 |
封入必要、本人保管 |
*特別方式の遺言~一般隔絶地遺言、一般危急時遺言、船舶隔絶地遺言、難船危急時遺言
7 遺産分割の方法
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相続人同士で遺産の分割が確定した場合 |
協議を重ねても話し合いがつかない、相続人同士が対立した等分割協議が不調の場合(遺産分割協議の不調) |
遺産分割の方法 |
相続人全員が合意した内容であることを証明する遺産分割協議書を作成する。 |
家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所の調停・審判によって遺産を分割する。 |
手続の方法・流れ |
{遺産分割協議書の必要事項} ① 財産の内容と相続人を特定すること ② 相続人全員が名を連ねること ③ 印鑑証明を受けた実印を押すこと
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{調停・審判による解決の流れ} 家庭裁判所に調停申し入れ⇒調停実施 (調停が成立した場合) 調停成立⇒調停証書の作成⇒分割方法の解決 (調停が不成立の場合) 調停不成立⇒審判⇒合意 ⇒分割方法の解決 ⇒不服 ⇒高等裁判所で審理
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備考 |
相続人に未成年者がいる場合: 法定代理人又は家庭裁判所で選任を受けた特別代理人が協議を実施 (未成年者と法定代理人が共に相続人の場合、利益相反行為に当たるため特別代理人を選任) |
調停委員会の調停: 家庭裁判の審判官と2人以上の調停委員の立会いのもと各相続人の意見を聞き、適切な助言を与える。 家庭裁判所の審判: 家庭裁判の審判官が財産の種類や各相続人の事情などを確認したうえで、分割方法について審判し、審理に従い強制的に遺産を分割する。 |
8 相続時精算課税制度の仕組み
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贈与税額の計算 |
贈与者・受贈者の条件 |
贈与税の納付、 |
相続税計算との関係 |
相続時精算課税 制度 |
(課税価額-2500万円)×20% 非課税枠は複数年分割利用可 |
贈与者:60歳以上 受贈者:20歳以上の子や孫 |
贈与時に納付、相続時に清算 |
贈与時の課税価額が相続財産に加算される。 相続税を減少させる効果はないが、時価の上昇を抑制する効果あり。 相続時精算課税制度は、相続財産を前渡しするための制度 |
従来の贈与制度 |
(課税価額-110万円)×累進税率 |
なし |
相続時に納付、完了 |
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成年後見制度について
1 成年後見制度の仕組み
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方を保
護・支援する制度
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法定後見制度(家庭裁判所が選任) |
任意後見制度 |
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後見(成年後見人) |
保佐(保佐人) |
補助(補助人) |
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対象となる方 |
判断能力が欠けているのが通常の状態 |
判断能力が著しく不十分な方 |
判断能力が不十分な方 |
本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくもの。家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見人を監督。 |
申立をすることができる人 |
本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長等 *本人以外の者の請求により保佐人に代理権を与える審判をする場合、補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要。 |
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成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)の同意が必要な行為
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・民法13条1項所定の行為(借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築等の行為) ・家庭裁判所の審判により、同意権・取消権の範囲を広げることができる ・日用品の購入など日常生活に関する行為は除く |
・申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部) ・日用品の購入など日常生活に関する行為は除く |
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取消しが可能な行為 |
日常生活に関する行為以外の行為 |
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成年後見人に与えられる代理権の範囲 |
財産に関するすべての法律行為 |
・申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 |
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制度を利用した場合の資格などの制限 |
医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失う等 |
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2 法定後見の開始までの手続き(申立てから4か月位)
申立て |
⇓
審理 (本人の陳述聴取など) |
⇓
法定後見の開始の審判・成年後見人等の選任 (成年後見人等の候補者の適格性の調査など) |
⇓
審判の確定 (法定後見の開始) |
3 法定後見の申立に必要な費用
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後見 |
保佐 |
補助 |
申立手数料(収入印紙) |
800円 |
800円 ・保佐人に代理権を付与する審判等には別途収入印紙が必要 |
800円 ・補助人に同意権又は代理権を付与する審判等には別途収入印紙が必要 |
登記手数料(収入印紙) |
2600円 |
2600円 |
2600円 |
その他 |
・その他に連絡用郵便切手代、本人の判断能力の程度を医学的に確認するための鑑定料等 ・申立てをするには、戸籍謄本、登記事項証明書、診断書等の書類が必要 |
4 成年後見の事例
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後見 |
保佐 |
補助 |
本人の状況等 |
(本人の状況) 本人は、20年前に統合失調症を発症し、15年前から入院。徐々に知的能力が低下。障害認定1級を受け障害年金から医療費を支出。本人は母1人子1人であったが、母が半年前に死亡したため、親族は母方叔母のみ (財産等の管理等) 亡母が残した自宅やアパートを相続 |
(本人の状況) 本人は、1年前に夫を亡くしてから1人暮らし。以前からの物忘れ症状が最近進み、買い物の際1万円を出したか5千円を出したかわからなくなること等が多くなり、日常生活に支障が出てきたため、長男家族と同居することとなった。 (財産の管理等) 長男は隣県に住んでおり、この際、老朽化している本人の自宅の土地、建物を売りたいと考えた |
(本人の状況) 本人は、最近お米をとがずに炊いてしまうなど、家事の失敗が見られるようになり、また、長男が日中仕事で留守の間に、訪問販売員から必要なない高額の呉服を何枚も購入してしまった。 |
申立人 |
母方叔母が後見開始の審判申立て |
長男が保佐開始、土地建物の売却の代理権付与の審判申し立て |
長男が補助開始、10万円以上の商品購入の同意権付与の審判申立て |
成年後見人等の選任
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母方叔母は遠方に居住しており、主たる後見事務は不動産の登記・管理であることから司法書士を成年後見人に、成年後見監督人にA社団法人を選任 長男が保佐人に選任されるとともに、居住用不動産の処分についての許可の審判を受け、本人の自宅を売却する手続きを開始
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長男が補助人に選任されて同意権が与えられた。その結果、本人が長男に断りなく10万円以上の商品を購入した場合には、長男はその契約の取消し可能 |
5 成年後見登記制度
成年後見登記の仕組み |
成年後見登記制度は、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容などをコンピュータ・システムによって登記し、登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を発行することによって登記情報を開示する制度 |
登記の方法 |
後見開始の審判がされた時や、任意後見契約の公正証書が作成された時などに、家庭裁判所又は公証人からの嘱託によって登記
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証明書の利用方法 |
成年後見人が本人に代わって財産の売買・介護サービス提供契約などを締結するときに、契約相手に対し登記事項の証明書を提示することによって、その権限などを確認してもらう。 また、成年後見を受けていない方は、自己が登記されていないことの証明書の交付を受けることができる。 |
証明書の交付請求方法 |
① 請求者の住所、氏名、生年月日及び資格(本人との関係)などを記載した申請書 ② 収入印紙(登記事項の証明550円、登記されていないことの証明300円) ③ 添付書類(配偶者、4親等以内の親族の証明書交付請求の場合は戸籍抄本や住民票等、本人から委任を受けた代理人が証明書交付請求の場合は委任状) |
証明書の交付請求ができる者 |
取引の安全の保護と本人のプライバシー保護の調和を図る観点から、登記されている本人、その配偶者・4親等内の親族、成年後見人などに限定。 なお、取引相手であることを理由に請求はできない。 |